バッハの生地から最後の街ハイデルべルグ。

pre-neophilia2008-12-14

ヴァイマールからハイデルベルグに向かう途中のアウトバーンでガソリンを給油。ドイツのガソリンスタンドはセルフなので車外に出て給油口を開け、ガソリンを入れようとしていたところに、若者が笑顔で近付いて来た。二十歳を少し過ぎたぐらいの背の高い若者なのだけど見るからに胡散臭い。テンガロンハットを被って妙なボタンの黒ジャケットに白シャツ、黒ズボン。カウボーイのような装い。アイゼナハまで行きたいので車に乗せてくれないかと言う。二人連れだそうだ。確かにカウボーイがもう一人近くに立っている。アイゼナハはハイデルベルグへの道の途中ではある。でも後ろの座席にもスーツケースが積んであり、あまりスペースが無い。おまけにカウボーイを二人も乗せるのは、ちょっとどうしたものだろうと思って一端は断ったのだが、奥さんが乗せていってあげようと言うので、かなり狭いがそれでも良いのなら、と声を掛けた。荷物をなるべくトランクに移してスペースを空けたのだけど、やはりスーツケース一個は二人の間に置かせてもらうことにして出発。アイゼナハへは30分もかからず着いてしまったのだけど、その間色々話を聞かせてもらった。その妙な出で立ちもヒッチハイクの旅にもそれなりの意味があるのだそうだ。彼らはドイツの職人達によって組織されている団体に属しているそうで、その団体では若者が仕事に就く前に、3年間の放浪の旅が強いられる。家に帰ることも許されず携帯も持てない。非常時を除き公共の移動手段も使用出来ない。家族や友人には立ち寄る街から電話をかけるか、手紙を書くかして自分達がとりあえず生きていることを知らせる。えらいこっちゃなあと思うのだけど本人達は平然とその文化の大切さを語る。古くは職人達が住む町を転々としながら職を探していたことが発端となっているそうだけど、今でも色んな場所を訪れ一人で生き抜くことを学び、新しい出会いを重ねることで自分を磨くのだと言う。ヒッチハイクをしていくのも人との出会いの一つ。こうやって自分達の文化を知らせることが出来る良い機会なのだと言う。カウボーイのような服装も彼らが目的を持ってヒッチハイクをしていることの目印。ドイツでは有名だそうだけど、外国人には怪しい格好だよ。英語を良く話すほうの一人はあと半年で旅を終え、大工になるためさらに勉強するのだと言う。アイゼナハのガソリンスタンドで彼らを降ろす。僕たちとは別の方向へ向かう別の車をそこからまた捕まえるそうだ。
今回ドイツに到着してすぐ向かったのはバッハがトーマス教会のカントールという重要なポストを勤め、精力的に作曲活動を行いそして亡くなったライプツィヒ。一旦ベルリンに向かい、戻ってきたヴァイマールは若かりしバッハが成功へのステップを上り始めた場所。バッハが住んでいた場所には道路に面した壁だけが残っていた。そしてカウボーイを降ろしたアイゼナハでバッハは生まれたのだ。アイゼナハに寄ることは考えていなかったけど、トーマス教会でバッハのお墓を目にして、時間をさかのぼってこうして生まれた街を訪れることが出来た。というような話もそう言えば彼らにはしなかったな。何だか気を遣ってこちらから質問攻めにしてしまった。
ハイデルベルグでは最後の最後、のんびりと過ごす。そしてネッカー川沿いの小さい店で指輪を買った。英語を全く話さない職人さんがウィンドーにずらっと吊るされていた指輪をさあ選べといった趣でざーっとテーブルに広げた。