有明AIGオープン

pre-neophilia2006-10-08

AIGオープンテニスを見に有明へ。最終日、決勝。
今年はあのロジャー・フェデラーが初来日ということで何百人という人が当日券を手に入れるために長蛇の列を作っていたのだが、僕としては実に珍しく早々とチケットを予約してあったので、するっと入場。
フェデラーは順当に決勝まで上がってきていたのだが、その相手がイギリスのティム・ヘンマンである。これはもう何としても見たいカードだった。ヘンマンは僕がイギリスに居た頃にウィンブルドンで活躍していて、国を挙げて応援していたので、ヘンマンのプレーは心に残っている。地味っちゃ地味なんだけど、イギリス選手のウィンブルドン優勝を願う国民のプレッシャー(もう70年も優勝していないのだ)を受けながらコートでタフな試合を突破していく様には外物ながらがんばってほしいものだと思っていた。僕がテニスに惹かれるのは何せその精神的な戦いが大きい要素であって、ヘンマンが出ているウィンブルドンの試合というのは、見てる方も「ぅわ〜・・・」ってもじもじしてしまうような威力がある。かなりかっこいいと思う。
で、そのヘンマンフェデラーがこの有明という埋立地に降り立った、というのがとても非現実的なのである。天井がわっと開いていてとてもきれいな空が見えるのだけど、外のバイクのエンジン音だとか、カラスの鳴き声だとか、会場内からも子供の叫び声だとかが聴こえてきて、コートに降りかかる。二人にもそれが聴こえているのだなあと思うと不思議で、でも素敵なことね、と思う。単なるファンの心理ですね。
ヘンマンの立ち上がり、テレビで見た懐かしいフォームで繰り出されるサーブは素晴らしく、一進一退であったのだけど、終わってみれば2セット連取でフェデラー。もうちょっと見たかった。でもゾクゾクする場面が沢山、会場も一体となっていた。こうなると本人達が意識してようがいまいが、アーティストである。太陽の光がすっと雲に妨げられてコートに影を差し、またふわっと光が戻る瞬間なんてかなりドラマチックな演出だ。
この男子シングルス決勝の前に女子シングルス決勝があったのだけど、客席は男子決勝開始に向けて埋まりだして、終わったら、満員のお客さんがいきなり10分の1ぐらい。でもあと女子ダブルスと男子ダブルス決勝がある。
この女子ダブルスが中々競った試合内容となったのだけど、あんまり劇的な展開が無くて、寝不足だったのもあってちょっと寝そうになった。2時間半後やっと決着が付き、最後のダブルスが始まるころには会場に入ってもう6時間が経っていた。日も暮れて温度も下がり風も強くなってきて、客席はいよいよガラガラだ。そんな中最後の男子ダブルスが始まったのだけど、この試合が良かったのだ。
フェデラーヘンマンのゲームの様な熱狂は無いし、そりゃ拍手だって少ないんだけど、お客さんがもう、テニスが好きで残ってますって感じが漂っていた。男が四人、熱いテニスをしているのを、じーっと見ながら色んなことが頭を巡って、ふと見上げると正面の客席と空との境界線にぽっと月が浮かんでて、何だか良い気分だったのだ。テニスはそこにちゃんとあるんだけど、俺もちゃんとそこに居ると思った。俺だってフェデラーが見たくてチケット取ったんだけど、でも俺がやりたい演奏会はこの男子ダブルス決勝なんだと思った。
試合が終わって最後の表彰式が終わっても客席はぼんやりとそこに留まっている。コートではダブルスの男達が残っていた観客にサインをしてあげている。僕が買った安い席からはコート近くのサインがもらえるようなところまでは降りていけないのだけど、決勝で敗れたペアの片方の選手、名前を聞いたことが無い選手だったのだけど背が高くて頭頂部に髪が無かったので心の中で「ジダン」と僕が呼んでいた選手がその安い席まで上がって来てくれた。ジダンがサラサラとマジックを滑らせてくれた僕の手帳の裏表紙には「トーマス」と書いてあった。ありがとうトーマス。がんばります。
そして、松岡の修造さんの存在。試合の切れ間にコートサイドからぽっと現れてマイクを片手にコートを闊歩、本人言うところの「計算ずくの自虐ネタ」で大いに苦笑を買っていた。あれ、どこ行ったのかな、と思ってもTシャツの背中にでっかく「修造」って書いてあるから遠くからでも見つけられる。コートに立ちながらも修造さんはすっかり裏方に回っていて、くだらない事をどんどんと大声で叫びながら実際修造さんはテニスを客席に寄せていたよ。お疲れ様でした。楽しかったです。

会場に入ってから9時間半、よく見たものである。