夜更かし

昨日の夜は早い時間から酔っ払っていたんだった。阿佐ヶ谷に戻ってヴィオロンに。店に入るといつもマスターが「おーっ」という顔で迎えてくれる。名曲喫茶ではあまり声は発せられないものなんだ。モーツァルトの「魔笛」。頭には「アマデウス」が浮かぶ。鳥の着ぐるみだ。鈴を叩く。酔っ払って寝てしまいそうだけどブランデー入りのコーヒーを飲む。店に入ったときに二人居たお客さんが一人増え、二人減り「魔笛」が終わると僕ともう一人しか居ない。閉店まであと35分、リクエストが無いか聞いてくれる。バッハのチェロコンチェルトをリクエストする。頭にはシャフラン。レコードは無い。ではショスタコーヴィチチェロソナタ。これも無さそうなので、では前に演奏会をした後にちらっとかかったあの曲をお願いする。ルービンシュタインラフマニノフ、ピアノコンチェルトの2番。音がキラキラしていた覚えがあった。改めて聴いてとても良い演奏だったけどちらっと聴いたときのほうがキラキラしていたなと思う。そういう日だったんだろう。
後10分。いつもパッヘルベルのカノンが流れて閉店だからその時間も見ておかなくてはならない。じゃあパヴァーヌだろうか。前にかけてもらったのはモントゥーのパヴァーヌだった。今回は誰だったんだろう。あるいはモントゥーなのかもしれない。演奏が終わるともうカノンの時間は残っていなかった。
いくら疲れたっていいけど精神的に疲れてはいけないよ、とマスターは言う。でもね、精神的に少し疲れているんです、と話す。ああそうか、でも大丈夫、と言ってくれる。僕に近しい人はみんな大丈夫と言ってくれる。甘やかしてるんだろうか。
こんな時間まで起きてたら駄目だろう。今日も明日だってやることがいっぱいあるんだ。やることをリストにするだけでも一仕事だよ。
一番大切だと思う言葉は実直だと椎名林檎が言っていた。僕は実直だろうか。カミュのペストであの医者が自分にとって重要なことだと言っていたのは、誠実であることだったか。僕は誠実だろうか。ウチのネコは実直だ。でも誠実ではないな。